静的なメンバ定数を参照するとリンクエラーとなる

クラス内にstatic constexpr Tで宣言した定数を、std::vector::emplace_back()関数とかに渡すと、リンクエラーになる場合があります。

ミニマムなコードとしては、以下のようになります:

struct X {
    static constexpr int x = 3;
};

template <class T>
void f(T&&) {}

int main()
{
    f(X::x); // リンクエラー : X::xの実体が見つからない
}

クラスの静的定数は、宣言だけした場合にコピーはできますが、その変数のポインタや参照をとったりはできません。そのようなことをしたい場合は、どこかの.cpp/.ccといった拡張子のソースファイルで、変数を定義する必要があります。

struct X {
    static constexpr int x = 3;
};

template <class T>
void f(T&&) {}

constexpr int X::x; // この翻訳単位にX::xの実体を置く
int main()
{
    f(X::x); // OK
}

回避策として考えられるのは、以下のようなものです:

  • C++17のインライン変数で定数を定義する (staticメンバ変数は自動的にインラインになる)
  • constexpr変数ではなく、constexpr関数で定数を定義する

参照

書籍 C++ Templates: The Complete Guide, 2nd Edition

書籍『C++ Templates: The Complete Guide』の第2版が発売しました。

初版はC++03でしたが、今回の改訂でC++17対応しています。

この本は、『C++テンプレート完全ガイド』というタイトルで初版が邦訳されています。C++03のときに、この本にお世話になった人はすごく多かったと思います。新しくなってこの本が長く残ってくれるのは、うれしい限りですね。

Boost 1.65.1リリース

Boost 1.65.0に重大なバグが何件かあったため、パッチバージョンアップしたBoost 1.65.1がリリースされました。1.65.0はスキップして1.65.1を使用してください。

1.65.1のリリースノートには、1.65.0の修正内容も含まれます。

Boost 1.65.0リリース

Boost 1.65.0がリリースされました。リリースノートの日本語訳は、いつものようにboostjpサイトで公開しています。

新ライブラリとして、PolyCollectionとStacktraceが追加されています。

標準C++の欠陥解決は、過去のバージョンに遡って適用される

C++17で入る予定の、可変引数でミューテックスを受け取ってスコープを抜けたらロック解除するscoped_lockクラスですが、C++17がDIS (Draft International Standard) の段階になり、仕様の手直しがもうほぼできない段階になってから、引数順の変更が行われました。

この変更は、ドラフト仕様 (Working Draft) としては、さらに次のバージョンのC++20に適用されました (Editor’s Reportを参照) 。しかし、libstdc++、libc++といった標準ライブラリの実装や、cppreferenceサイトなどでは、この変更がC++17に取り込まれたものとして扱っていました。

さらに、cppreferenceサイトでは、「この変更は、過去にリリースされたC++バージョンに遡って適用された」と書いてありました。そんなことが標準ドキュメントのどこに書いてあるのかわからず、また、過去のバージョンに遡って適用される変更がどれなのかわからないと、なにをC++17と言っていいのかわからなくなります。ですので、std-discussionメーリングリストで質問してみました。

この質問への返答を要約すると、以下のような扱いになっていました:

  • 欠陥 (Defect) の解決は、基本的に過去のバージョンに遡って適用される
  • これは、既知の欠陥と解決策がわかっていれば、コンパイラや標準ライブラリの実装はできるだけ早くそれを適用したいから

それと今回の場合、C++17はまだ策定が完了しておらず、その段階で標準ライブラリの全ての実装が、すでにこの変更に対応しています。ですので、今回の変更は少なくともC++17に含まれると考えられます。また、欠陥の修正は、どのバージョンの仕様書に適用されたかだけでなく、修正内容が報告された時期が重要で、実装にはすぐに適用されることがある、ということがわかりました。

インクルードするディレクトリをマクロ定数として持つ

とある事情から「インクルードするディレクトリが長いので何度も書きたくない」という状況になり、インクルードするディレクトリをマクロ定数に持って、インクルードするファイル名と連結してインクルードしたい、ということがありました。

そんなときの対応は、このようになりました:

// BOOST_PP_STRINGIZEと同等
// トークンを文字列化する
#define PP_XSTR(M) #M
#define PP_STR(x) PP_XSTR(x)

// インクルードするディレクトリ。
// 最後が / になってはならない (トークンとして使えない文字、というエラーになる)
#define MY_LIB_PATH aaa/bbb/ccc

// aaa/bbb/ccc/ddd.hをインクルードする
#include PP_STR(MY_LIB_PATH/ddd.h)

int main() {}

https://wandbox.org/permlink/I6jGIJcqLE4RMHFE

参照

C++17標準ライブラリの細かい変更いろいろ その1

最近cpprefjpに書いたものを列挙します。

  • assertマクロがconstexpr関数内で使用できるようになった
  • std::next()関数のイテレータ要件がForward IteratorからInput Iteratorに緩和された
  • std::addressof()const T&&の引数を禁止にした。addressof<const T>(T())のようにするとconst T&&が指定できていた
  • std::addressof()がconstexprに対応した
  • std::mutexとかstd::recursive_mutexlock()メンバ関数が、device_or_resource_busyのエラーを起こらなくした
  • 非順序連想コンテナのreserve()メンバ関数が、C++14までn-1以上の予約していたが、C++17からn以上が予約されるようになった
  • std::shared_ptr<const void>のようなテンプレート引数に対して間接参照演算子が適用できるようになった
  • タプルのstd::get()関数に、const T&&版を追加。const付きで戻り値を返すと、その一時オブジェクトはconst T&&になっていたため
  • std::atomicクラスのテンプレート引数設定済みの別名として、atomic_uint8_tのような固定幅整数型を追加
  • std::atomicクラスvalue_typedifference_typeを追加。fetch系の関数Tではなくdifference_typeを受け取るよう変更された
  • std::numeric_limits::is_moduloの符号あり整数型に対する仕様が変更された。これまでは符号あり整数型がオーバーフローしたときの未定義動作としての最小値に戻る挙動をtrueとして扱っていたのをやめた。規格上は符号あり整数型はfalseで、処理系がオーバーフローしたときの動作をラップして最小値に戻る挙動として定義したときにtrueとなるようにした
  • std::vectorstd::dequestd::basic_stringshrink_to_fit()メンバ関数で、メモリを縮小して再割り当てが発生するときに、イテレータの無効化が起こることが明記された。明記されただけで、元々起こっていただろう
  • std::basic_stringのコンストラクタに、basic_string(const basic_string& str, size_type pos, const Allocator& a = Allocator());オーバーロードを追加

標準ライブラリの実装で追加のnoexceptが付いている場合がある

標準ライブラリの仕様でnoexceptが付いているものは、実装にもnoexceptを付けることが求められます。

しかし、標準ライブラリの仕様でnoexceptが付いていない場合、実装にnoexceptを付けないことは求められません。

たとえば、libc++のstd::vectorクラスでは、以下のメンバ関数noexceptが付いています。

// https://github.com/llvm-mirror/libcxx/blob/018a3d51a47f7275c59e802709104498b729522b/include/vector

vector()
    noexcept(is_nothrow_default_constructible<allocator_type>::value);

vector(vector&& x)
    noexcept(is_nothrow_move_constructible<allocator_type>::value);

vector& operator=(vector&& x)
    noexcept(
         allocator_type::propagate_on_container_move_assignment::value ||
         allocator_type::is_always_equal::value);

void shrink_to_fit() noexcept;

void swap(vector&)
    noexcept(allocator_traits<allocator_type>::propagate_on_container_swap::value ||
             allocator_traits<allocator_type>::is_always_equal::value);

libstdc++のstd::vectorクラスでは、以下のメンバ関数noexceptが付いています。

// https://github.com/gcc-mirror/gcc/blob/67886b40399e79bcc392a152e96d9116ba24e2ed/libstdc%2B%2B-v3/include/bits/stl_vector.h

vector()
    noexcept(is_nothrow_default_constructible<_Alloc>::value);

vector(vector&& __x) noexcept;

vector(vector&& __rv, const allocator_type& __m)
    noexcept(_Alloc_traits::_S_always_equal());

vector&
    operator=(vector&& __x) noexcept(_Alloc_traits::_S_nothrow_move());

// swapで例外を投げそうなアロケータはコンパイルエラー
void swap(vector& __x) _GLIBCXX_NOEXCEPT;

これにより、特定の標準ライブラリを使用する場合に、例外を投げない強い保証をするコードを書けることがあります (とくにデフォルトコンストラクタが有用)。また、仕様でnoexceptが付いていない関数に対して、noexcept(式)で例外を投げないかチェックすることにも意義があります。

Boost 1.64.0がリリースされました

Boost 1.64.0がリリースされました。リリースノートを日本語翻訳したものは、いつものようにboostjpサイトで公開しています。

新ライブラリ

主な更新

今回はほとんどがバグ修正になっています。

Visual Studio 2017 (14.1)がサポートされています。